「空の民の子どもたち ー難民キャンプでであったラオスのモン族ー」

                      安井清子著   (社会評論社)


 就職活動をしていた頃、出版社へ片っ端から手紙を送っていたら、一社だけお返事があった。児童書の出版社だった。

 社長自ら筆を取ってくださった手書きのお葉書には、新卒の採用がないことを丁寧に詫びたあとで、「子どもたちの未来を考えること」は、将来の地球の幸せを考えることだと書いてあった。

 安井清子さんの「空の民の子どもたち」を読んで、子どもたちの未来の幸せは将来の地球の幸せに繋がるのだと、そのお葉書を思い出した。

 タイの難民キャンプでともに過ごしたモン族の子どもたちとの思い出を綴った1冊は、それぞれ自分の道を歩きはじめた子どもたちの幸せを願って終わる。

 子どもたちのこれまでの苦労は複雑な戦争によって引き起こされ、これからの幸せは地球の平和とともにある。あまりに大きなものに巻き込まれ振り回される子どもたちを前に、安井さんは何度も無力感を感じている。

 安井さんの静かな強さは、この無力感と闘いながら、自分のできることから誠実に実行してきた経験から湧き出ているのだと思う。難民キャンプで絵本を読み、お話を作り、人形劇をやった子どもたちは、過酷な環境のなかでもたくましく育ち、現状を見据え自分の考えを持った大人へと育っていった。

 そして、現在も安井さんの活動は着実に実を結びつづけ、地元の人々に受け入れられている。ひとつの活動が応援する人たちの輪を広げ、次の活動の力となる。ひとつの使命を与えられた人の生き方がここにある。

 自分にできることから始めればいい、というひとつの考え方は私にも勇気をくれる。仕事場で回ってくる募金箱へのささやかなカンパ、コンビニで返ってきたちょっとしたおつりをレジ脇の募金箱へ入れる。そんなことしかできないが、そんなささやかさの積み重ねだってなにかの力になるかもしれないと、普通の人でしかない私は考える。



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